カシミヤのコートのケアは、ドライクリーニング一択だと思っていませんか?
実は、カシミヤコートを「クリーニングに出さない」という選択は、大切な一着の寿命を延ばし、新品のような風合いを保つために非常に有効な手段です。
一般的なドライクリーニングは油性の汚れを落とすのには優れていますが、頻繁に繰り返すと繊維に含まれる天然の油分を奪い、パサつきの原因になることもあります。だからこそ、自宅でエマールなどの中性洗剤を使った正しい洗濯方法を学び、日常的にブラシで手入れをすることが重要です。
クリーニング頻度を抑え、素材への負担を最小限にすることで、カシミヤ特有のぬめり感や光沢を守ることができます。
この記事では、私が日々実践している具体的なメンテナンス術を詳しく解説します。
- カシミヤの風合いを維持する馬毛ブラシの選び方と使い方
- スチーマーを活用した消臭と繊維のボリューム回復術
- 自宅での手洗いで失敗しないための温度管理と乾燥手順
- 虫食いや型崩れを徹底的に防ぐシーズンオフの保管方法
カシミヤコートをクリーニングに出さない派の日常ケア

毎日のお手入れを丁寧に行うことで、クリーニング店に頼る回数を最小限に抑えることができます。
私が、素材を傷めずに美しさを保つために最も大切にしている「物理的な汚れ除去」と「繊維のコンディション調整」について詳しく解説します。
馬毛ブラシを使った正しいブラッシングの手順

カシミヤという繊細な素材にとって、ブラッシングは単なる掃除ではなく「繊維のトリートメント」のような役割を果たします。
クリーニングに出さない選択をするなら、まずは信頼できる一本のブラシを手に入れてください。私が強くおすすめするのは、適度な柔らかさとコシを兼ね備えた「馬毛(ホースヘア)」のブラシです。豚毛のような硬い毛はカシミヤの細い繊維を傷つけ、毛羽立ちを加速させる恐れがあるため、天然の馬毛であることが絶対条件です。
ブラッシングの具体的な手順としては、まず生地の「毛並み」に逆らって下から上へ優しくブラシを動かし、繊維の奥に入り込んだ目に見えないホコリや花粉を掻き出します。次に、上から下へ毛並みに沿って優しく整えることで、キューティクルが整い、カシミヤ特有の光沢が蘇ります。
特に、バッグと擦れる腰回りや、椅子と接する背中部分は繊維が寝てしまいやすいため、空気を送り込むようなイメージで丁寧にブラシを当ててください。
安価なナイロンブラシを試した際、静電気が発生してしまい、逆にホコリを吸い寄せてしまった苦い経験があります。やはり天然毛のブラシは、静電気を防ぐ意味でも非常に優秀です。
外から持ち帰った微粒子は、時間が経つと湿気を吸って繊維に固着してしまいます。その日のうちにリセットすることで、長期間クリーニングなしでも清潔な状態をキープできるようになります。
焼肉の臭い取りに効果的なスチームの当て方

カシミヤコートを着て外出すると、どうしても気になるのが食事の臭いや排気ガスの臭いです。「洗わなきゃ!」と焦る前に、まずは衣類スチーマーを試してみてください。
水蒸気の微細な粒子が繊維の奥まで入り込み、臭いの原因物質をキャッチして蒸発する際に一緒に持ち去ってくれます。これはドライクリーニングでは解決しにくい「水溶性のトラブル」にも効果的です。
ポイントは、スチーマーのプレートを生地に直接押し当てないことです。1cmほど浮かせて、たっぷりのスチームを当てるようにしてください。
また、表面だけでなく「裏地側」からスチームを当てるのもコツです。裏側から蒸気を通すことで、表地の繊細な起毛感を損なわずに内側からふんわりと立ち上げることができます。
もしスチーマーがない場合は、入浴後のお風呂場に一晩吊るしておく「お風呂場作戦」も有効です。翌朝には湿気とともに臭いが抜け、繊維がふっくらしています。
ただし、スチーム後は完全に湿気が抜けるまでクローゼットには仕舞わず、室内で十分に陰干しをすることを忘れないでください。湿気を含んだままの保管は、カビや虫食いの最大の原因になります。
毛玉取りで生地を傷めないための注意点
カシミヤは非常に細く柔らかい繊維なので、摩擦によってどうしても毛玉(ピリング)ができやすい性質があります。
毛玉を見つけると、ついつい手で引きちぎりたくなりますが、これは絶対にNGです。無理に引っ張ると、まだ健康な周囲の繊維まで引き出してしまい、さらに大きな毛玉を作る原因になるだけでなく、最終的には生地が薄くなって穴が開いてしまいます。
小さな毛玉であれば、眉切りバサミや手芸用の小さなハサミで、一つずつ根元から丁寧にカットするのが一番安全です。また、カシミヤ専用の毛玉取りブラシも市販されていますが、使いすぎると生地を削り取ってしまうため、あくまで「優しく撫でる」程度に留めてください。
電動の毛玉取り器を使う場合は、カシミヤは生地が薄い箇所が多いため、吸い込み口に生地を巻き込まないよう細心の注意を払ってください。ガードの高さが調整できるタイプを選び、浮かせるように使うのがポイントです。
日頃の丁寧なブラッシングを徹底していれば、繊維の絡まりが解けるため、結果として毛玉取りの頻度を劇的に減らすことができます。
防虫カバーや防虫剤を活用したクローゼット保管

クリーニングに出さない場合、プロの手による防虫加工が行われません。
カシミヤは高級な動物性タンパク質なので、衣類害虫にとっては最高のご馳走です。自宅での保管対策は「物理的な遮断」と「化学的な忌避」の二段構えで行いましょう。
まず、保管の際は通気性の良い「不織布」のカバーを使用します。ビニールカバーは通気性が悪く、内部に湿気が溜まりやすいため、カビの原因になります。
防虫剤を設置する際は、クローゼットの上部に配置します。防虫成分は空気より重いため、上から下へ流れる性質があるからです。
私は天然の樟脳(しょうのう)を愛用していますが、複数の異なる防虫剤を併用すると化学反応でシミができることがあるので、一種類に絞るようにしています。
また、シーズン中であっても、月に一度はクローゼットの扉を開け放して空気を入れ替えることをおすすめします。これだけでも、虫の定着を防ぎ、カビのリスクを大幅に下げることができます。
陰干しによる湿気対策でカビや変色を防ぐ方法
カシミヤを美しく保つためには、適度な「休息」が必要です。一日中着用したコートは、体温や汗による湿気、そして空気中の水分をたっぷり吸い込んでいます。これを放置すると、繊維の弾力が失われるだけでなく、カビの発生や生地の酸化による変色を引き起こします。特に脇の下や背中部分は、湿気が残りやすい箇所です。
休息のルールとして「1日着たら2日休ませる」を徹底してください。
脱いだ直後のコートは、まず厚みのある木製ハンガーに掛け、形を整えます。針金ハンガーのような細いものは肩に負担がかかり、自重で型崩れするため避けてください。
室内で直射日光の当たらない、風通しの良い場所に数時間干しておくだけで、繊維の中の湿気が抜け、カシミヤ本来の立ち上がりが戻ります。直射日光は紫外線によって繊維を劣化させ、染料を褪色させるため、必ず「陰干し」を徹底してください。
保管前には一晩、しっかりと空気に触れさせることが大切です。
カシミヤコートをクリーニングに出さない|自宅洗いのコツ
日常のケアでは取り切れない汚れが蓄積した場合や、シーズンの終わりに自分で行う「自宅洗い」について深掘りします。
これはカシミヤの風合いを最大限に引き出す一方で、高い注意力が求められる作業です。
エマールなど中性洗剤を使った手洗いの準備
自宅で洗う最大のメリットは、溶剤ではなく「水」と「中性洗剤」を使うことで、ドライクリーニングでは落ちにくい汗などの水溶性汚れをスッキリ落とし、繊維のふんわり感を復活させられる点にあります。
私はエマールのようなおしゃれ着用洗剤を愛用していますが、これらは液性が「中性」に調整されており、カシミヤの主成分であるタンパク質を傷めずに洗うことができます。一般的な洗濯洗剤(弱アルカリ性)は、皮脂汚れには強いものの、カシミヤの繊維まで分解してしまうため、絶対に使用しないでください。
洗剤の分量はメーカーの規定量を厳守してください。多すぎるとすすぎが不十分になり、逆に繊維を傷める原因になります。また、最後のすすぎの際にヘアコンディショナーを少量溶かすと、失われた油分を補い、さらにふっくらとした仕上がりになります。これは、カシミヤも私たちの髪の毛と同じタンパク質でできているからです。
事前の準備として、コートのボタンをすべて留め、目立つ汚れがある場合は洗剤の原液を少量つけて馴染ませておきましょう。
水洗い不可のマークがある場合、自宅洗いは完全に自己責任となります。高級ブランド品や芯地がしっかり入った仕立てのコートは、無理をせず信頼できるクリーニング店に相談することをおすすめします。
洗濯表示の見方に不安がある方は、消費者庁「新しい洗濯表示」を必ず確認してください。
失敗を防ぐための水温調節と押し洗いの実践

カシミヤの繊維表面には「スケール」という鱗のような構造があり、水に濡れた状態で「熱」と「摩擦」が加わると、このスケールが開いて互いにガッチリと噛み合ってしまいます。これが、洗濯後に服がカチカチに縮んでしまう「フェルト化」の正体です。
この現象を防ぐためには、温度と洗い方を完璧にコントロールする必要があります。
水温は必ず30度以下の常温に設定してください。人の肌で「ぬるい」と感じる35度以上でも、カシミヤにとっては高すぎます。
洗い方は、洗面器や浴槽に作った洗剤液の中に、畳んだ状態のコートをそっと沈め、両手で上からそっと押し、持ち上げる動作を繰り返す「押し洗い」のみで行います。絶対に揉んだり、擦ったりしないでください。汚れは洗剤の力で自然に浮き出てきます。
すすぎの際も、同じ温度の水を使い、優しく押し洗いをして泡が完全に消えるまで丁寧に行います。温度の急激な変化も繊維を収縮させるため、終始一定の温度を保つことが成功の鍵です。
(出典:消費者庁『新しい洗濯表示』)
洗濯機を使わずタオルドライで平干しする手順

洗い終わった後のコートは、大量の水を含んで非常に重くなっています。ここで焦って洗濯機の脱水ボタンを押すと、今までの丁寧な作業がすべて台無しになります。脱水機の高速回転による強い遠心力は、繊維を無理やり圧縮し、型崩れと激しい縮みを引き起こします。
時間はかかりますが、バスタオルを使った自然な脱水を行いましょう。
大きめのバスタオルを床に広げ、その上に濡れたコートを平らに置きます。バスタオルでコートをサンドイッチするように挟み込み、上から優しく手で押して水分をタオルへ移していきます。タオルがびしょびしょになったら新しいものに交換し、これを数回繰り返します。「水滴が垂れない程度」まで水分を除去するのが目標です。
乾燥は必ず「平干し専用ネット」を使い、重みが分散される状態で陰干しします。ハンガーに掛けると、水分の重みで肩や裾が伸び、無残なシルエットになってしまいます。乾燥には2〜3日かかることもありますが、早く乾かそうとしてドライヤーや暖房の熱を当てるのは厳禁です。じっくりと陰干しすることで、繊維が本来の弾力を持って元の位置に落ち着きます。
| 手入れ項目 | 自宅洗いの注意点 |
|---|---|
| 水温 | 30度以下の常温(お湯は繊維を縮めるため厳禁) |
| 洗剤 | 中性洗剤(おしゃれ着用)+コンディショナー |
| 乾燥方法 | タオルドライ後に平干しネットで完全陰干し |
縮んだ場合の直し方とプロに任せるべき判断基準
細心の注意を払っていても、仕上がりが少しタイトに感じられたり、特定の箇所が縮んでしまったりすることがあります。そんな時の最終手段として、自宅でのリカバリー方法を知っておくと心強いです。
縮みの原因は、繊維のスケールが絡み合って固定されてしまったことにあります。これを解くには、再度スチームアイロンで繊維を緩ませるのが効果的です。
縮んだ箇所にたっぷりスチームを当て、生地が温かいうちに、手でゆっくりと、元の寸法に近づけるように優しく横・縦方向に引っ張ります。一度に直そうとせず、少しずつ数回に分けて行うのがコツです。
一方で、自宅ケアの限界を知ることも、一着のコートを守るためには必要です。以下のような場合は、すぐに専門のクリーニング店へ相談してください。
- ワインや血液など、タンパク質が強固に固着したシミ
- 広範囲にカビが発生し、繊維の奥まで菌糸が入り込んでいる場合
- 生地が極端にフェルト化して、板のように硬くなってしまった場合
これらは家庭での対処は非常に困難で、無理をすると生地を破いてしまう恐れがあります。クリーニング店に相談しましょう。
まとめ:カシミヤコートをクリーニングに出さない!自宅でのお手入れ

カシミヤコートをクリーニングに出さないという選択は、日々の丁寧なブラッシングと、正しい知識に基づいた自宅ケアがあれば十分に可能です。
むしろ、石油系溶剤を使うドライクリーニングの回数を減らすことで、カシミヤ本来の「ぬめり感」やツヤを長く維持できるというメリットもあります。
私自身、自分でお手入れをすることで、その一着に対する理解が深まり、愛着もいっそう強くなりました。
基本は「着用後のブラッシング」と「適切な休息」。そして、どうしても汚れが気になる時だけ、水温と洗剤に注意して優しく手洗いする。このサイクルを守ることで、あなたの大切なコートは何年も、十数年もあなたの冬を彩ってくれるはずです。
この記事でご紹介したコツを参考に、ぜひカシミヤという極上の素材と長く、深く付き合っていってください。なお、正確な情報は各製品のメーカー公式サイト等も併せてご確認ください。


