冬のショッピングで素敵なニットを見つけたとき、「アルパカとカシミヤ、結局どっちが高いの?」「どっちが暖かいの?」と迷った経験はありませんか?
私自身、以前は「カシミヤ=高級」「アルパカ=ちょっと珍しいウール」くらいの感覚でいたのですが、実はこの二つの素材、調べてみると価格も機能も単純な上下関係ではないんです。
市場価格だけを見ればカシミヤの方が高い傾向にありますが、実は生産量や希少性、そして「暖かさ」という点では、アルパカが驚くべき実力を持っています。
この記事では、価格の謎から、失敗しない選び方まで分かりやすく解説します。
- アルパカとカシミヤの市場価格と希少性の意外な逆転現象
- ユニクロのカシミヤと高級ブランド品の決定的な違い
- 「暖かさ」や「寿命」で比較したときのそれぞれの勝者
- ライフスタイルに合わせた失敗しない素材の選び方
市場価格|アルパカとカシミヤどっちが高いか分析
お店で値札を見ると、カシミヤのセーターは数万円、アルパカはそれより少し安いか同じくらい…ということが多いですよね。
しかし、この価格差には「ブランド料」や「等級」といった複雑なカラクリが隠されています。
まずは、お金にまつわる疑問から紐解いていきましょう。
ランクや等級で変わる値段の仕組み

「カシミヤ100%」と書かれていても、1万円で買えるものと10万円以上するものがありますよね。この価格差の正体は、主に原毛の「等級(グレード)」にあります。
カシミヤは繊維が細くて長いほど高品質とされ、最高級の「Grade A」は、とろけるような肌触りで非常に高価です。一般的にカシミヤの繊維の太さは14〜19マイクロン程度ですが、このわずか数マイクロンの差が、価格を数倍にも跳ね上げます。一方で、繊維が太く短い「Grade B」や「Grade C」は、安価ですが肌触りが少し劣り、毛玉ができやすい傾向があります。
対するアルパカにも等級があります。アルパカの毛は通常20〜30マイクロン前後ですが、その中でも特に細い毛を選別した「ロイヤルベビーアルパカ」と呼ばれるランクは、アルパカ全体のわずか1%ほどしか取れない希少な素材です。このランクになると、カシミヤに匹敵する滑らかさを持ち、価格もそれなりに高くなります。
つまり、市場全体で見れば「カシミヤの方が高い」傾向にありますが、「安いグレードのカシミヤ」よりも「最高級ランクのアルパカ」の方が高価格で取引されるケースも往々にしてあるのです。
「素材名」だけで判断せず、その中身である「ランク」を見極めることが、賢い買い物の第一歩です。
| 素材グレード | 繊維の細さ(目安) | 価格帯イメージ | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 最高級カシミヤ (Grade A) | 14〜15μm | 5万〜50万円 | とろけるような極上の肌触り。非常に高価。 |
| ロイヤルベビーアルパカ | 〜19μm | 3万〜8万円 | カシミヤ並みの滑らかさと、圧倒的な希少性。 |
| ベビーアルパカ | 21〜23μm | 2万〜5万円 | 柔らかさと丈夫さのバランスが良い主流品。 |
| 一般カシミヤ (Grade B/C) | 16〜30μm | 1万〜3万円 | 手頃だが、耐久性や肌触りは最高級品に劣る。 |
ユニクロ製品と高級ブランドの違い
私たちの生活にカシミヤを身近にしてくれた立役者といえば、ユニクロですよね。税込1万円以下でカシミヤセーターが手に入るのは、かつての繊維業界の常識を覆す価格破壊でした。
では、ユニクロと数十万円するイタリアの高級ブランド(ロロ・ピアーナやブルネロ・クチネリなど)は何が違うのでしょうか。
それはズバリ、「原毛のランク」と「製造工程の手間」です。高級ブランドは、中国の内モンゴルなどの特定地域で採れた最高級のGrade A原毛のみを厳選し、熟練の技術でふんわりと時間をかけて編み上げます。これにより、空気を多く含んで驚くほど軽く、かつ暖かいセーターが完成します。
一方、ユニクロなどのマス製品は、大量生産によるコストダウンに加え、少しグレードを調整した原毛を使用したり、高速な機械で編み上げることで価格を抑えています。もちろん、ユニクロの製品も価格対比で見れば非常に優秀ですが、ハイブランドのカシミヤが持つ「一生モノの感動体験」や「圧倒的な軽さ」とは、やはり別物と考えたほうが良いでしょう。
「普段使いならユニクロで十分満足できるけれど、特別な日のための一着なら高級ブランド」というように、目的によって棲み分けができていると言えますね。
希少性と生産量から見る価値

ここが一番面白いポイントなのですが、実は「物理的な希少性」でいうと、アルパカの方が圧倒的にレアなんです。
世界中で飼育されている羊(ウール)の数は10億頭以上と言われていますが、カシミヤ山羊はその数分の一、そしてアルパカに至ってはさらに少なく、南米ペルーを中心にごく限られた地域にしか生息していません。以下の表を見ていただければ、その差は歴然です。
| 素材 | 推定年間生産量 | 希少性 |
|---|---|---|
| ウール(羊毛) | 約1,150,000トン | 豊富 |
| カシミヤ | 約6,500トン〜 | 希少 |
| アルパカ | 約4,000トン | 極めて希少 |
データを見ると、アルパカの生産量はカシミヤよりも少ないことが分かります。
それなのに、なぜ市場価格はカシミヤの方が高いのでしょうか?
答えは「需要の差」です。
カシミヤは「繊維の宝石」として世界中で圧倒的な知名度と人気があるため、需要が供給を常に上回り、価格が高騰し続けています。
一方、アルパカはその優れた機能性にもかかわらず、まだその真価が広く知られていないため、「希少なのに割安(お得)」という不思議な現象が起きているのです。投資的な視点で見れば、アルパカ製品は「過小評価されている隠れた優良株」と言えるかもしれません。
サステナビリティと環境への配慮

最近のファッション業界では「環境に優しいか」も価格や価値を決める重要な要素になっています。この点において、アルパカは「地球を救う繊維」として大注目されています。
カシミヤ山羊の飼育には、実は環境面での課題があります。山羊の鋭い蹄(ひづめ)は放牧地の土壌を掘り返してしまい、さらに草を根こそぎ食べてしまう習性があるため、過剰な放牧は草原の砂漠化を加速させる要因の一つと指摘されています。
アルパカがエコな理由
対照的に、アルパカは環境に対して非常に優しい動物です。
- 足裏がプニプニ: 肉球のような柔らかい足裏をしているため、土壌を踏み固めたり傷つけたりしません。
- 優しい食事スタイル: 植物の根を残して先端だけを器用に食べるため、草がすぐに再生します。
- 水と食料の効率: カシミヤ山羊よりも少ない水と食料で生育でき、過酷な環境でも生きていけます。
このように、環境負荷が低いことから、パタゴニアや無印良品といった環境意識の高いブランドがアルパカ素材を積極的に採用し始めています。
私たちがアルパカ製品を選ぶことは、単に暖かい服を買うだけでなく、地球環境を守る選択にも繋がるのです。この「倫理的な価値」は、今後ますます価格に反映されていくでしょう。
寿命や暖かさ|アルパカとカシミヤどっちが高いか
「高いお金を出して買うなら、長く着られて暖かい方がいい!」というのが本音ですよね。
ここからは、素材としての機能性、つまり「実用的な価値」が高いのはどちらなのかを比較していきます。
どっちが暖かいか保温性の違い

結論から言うと、断熱性や保温力においては「アルパカ」に軍配が上がります。
アルパカは、標高4,000メートルを超えるアンデス山脈の高地で暮らしています。そこは昼夜の寒暖差が35度にも達する過酷な環境です。
この寒さから身を守るため、アルパカの毛は中心が空洞になった「中空構造(マカロニ状)」に進化しました。この空洞部分に暖かい空気をたっぷりと閉じ込めることで、天然のダウンジャケットのような驚異的な断熱効果を発揮します。その保温性はウールの約7倍とも言われています。
一方、カシミヤの暖かさは、極細の繊維が複雑に絡み合うことで生まれる「デッドエア(動かない空気の層)」によるものです。カシミヤももちろん非常に暖かいですが、アルパカのような強力な遮断性というよりは、体温を逃がさず、かつ湿度を適度に放出する「呼吸する暖かさ」が特徴です。
真冬の屋外イベントや寒冷地への旅行なら「アルパカ」、暖房の効いたオフィスと外を行き来するような日常使いなら、蒸れにくい「カシミヤ」というように使い分けるのも賢い選択です。
チクチク感と肌触りの特徴
肌触りの良さ、いわゆる「ヌメリ感」や「とろみ」に関しては、やはりカシミヤが最強です。
人間の肌は一般的に、直径30マイクロン以上の繊維が触れると「チクチクする」と感じるとされています。高級カシミヤの繊維は14〜15マイクロンと極めて細く、これは人間の髪の毛(約50マイクロン)の数分の一の細さです。この圧倒的な細さが、皮膚への刺激を極限まで減らし、素肌に着てもストレスのない極上の柔らかさを生み出しています。
しかし、最近のアルパカも負けてはいません。かつては「アルパカ=チクチクする」というイメージもありましたが、それは選別技術が未熟だった時代の話。現在は、繊維表面のスケール(うろこ)が滑らかで、カシミヤに近いしっとりとした質感を持つ「ベビーアルパカ」や「ロイヤルベビーアルパカ」が流通しています。
ただし、アルパカの中には安価なグレードのものもあり、それらは太い繊維が混じっていてチクチクすることがあります。敏感肌の方がアルパカを選ぶ際は、「ベビーアルパカ」以上のグレード表記があるものを選ぶことをおすすめします。
毛玉のできにくさと寿命の長さ

長く愛用するという「寿命」の観点で見ると、アルパカの方が圧倒的に丈夫で長持ちします。
カシミヤは繊維が短くて非常に繊細なため、摩擦に弱く、着用しているだけで脇や袖口にすぐに毛玉(ピリング)ができてしまいます。カシミヤのコートやセーターを美しく保つためには、毎日のブラッシングや定期的なメンテナンスが不可欠です。どんなに高級なカシミヤでも、ケアを怠れば数年で見た目が損なわれることもあります。
以下の記事でカシミヤコートの詳しい寿命やケア方法について解説していますので、参考にしてください。
一方、アルパカの繊維は非常に長く、かつ強靭です。
長い繊維は糸から抜け出しにくいため、毛玉ができにくいという素晴らしい特性を持っています。また、水や汚れにも強く、適切にケアすれば10年、15年と新品同様の風合いを保てることも珍しくありません。
「ズボラだけど良いものを長く着たい」「気を使わずにガシガシ着たい」という方には、間違いなくアルパカがおすすめです。
コートやマフラーの選び方

素材の特性を理解すると、アイテムごとの最適な選び方が見えてきます。失敗しないための選び方のヒントをまとめました。
アイテム別のおすすめ素材
- マフラー・ストール:
首元は皮膚が薄く最も敏感な部分です。ここでは肌触りを最優先して「カシミヤ」を選ぶのがベスト。軽くて首への負担も少ないので、肩こり防止にもなります。 - コート・アウター:
コートはリュックを背負ったり、満員電車で擦れたりと、過酷な環境に晒されます。摩擦に強く、雨や雪も弾きやすい「アルパカ」のコートは、実用性抜群の一生モノになります。 - ニット・セーター:
インナーとして着る薄手のニットならカシミヤ、アウター代わりに着るような厚手のローゲージニットなら、保温性の高いアルパカがおすすめです。
また、製品を選ぶ際は「繊維の組成表示」を必ず確認しましょう。
日本では「家庭用品品質表示法」によって繊維の名称表示が厳格に定められており、「カシミヤ」や「アルパカ」と表示するには基準を満たす必要があります。(出典:消費者庁『繊維製品の表示について – 繊維の名称』)
自宅でのお手入れや洗濯方法
どちらも天然素材なので、基本的には手洗い(押し洗い)か、クリーニング店への依頼が推奨されます。ただ、日々の「手間の少なさ」という点では、アルパカの方が少し楽かもしれません。
アルパカには、ウール特有の油分である「ラノリン」が含まれていません。そのため、ホコリやチリが付着しにくく、汗をかいても臭いが発生しにくいという抗菌・防臭効果があります。シーズン中に数回、あるいは汚れが気になった時に洗う程度で十分清潔さを保てます(着用4〜5回に1回程度が目安)。
カシミヤは皮脂や汗を吸着しやすいため、放置すると虫食いの原因になります。着用後は必ず馬毛ブラシなどでブラッシングをしてホコリを落とし、1日着たら2日は休ませるローテーションが必要です。もし自宅で洗う場合は、縮みや型崩れを防ぐために細心の注意が必要です。
ユニクロのカシミヤなど、自宅での洗濯を検討されている方は、以下の記事で失敗しない手順を詳しく紹介しています。
まとめ:アルパカとカシミヤどっちが高いか?
最後に、これまでの比較をふまえて「結局どっちを選ぶべき?」という疑問への答えをまとめます。
あなたにおすすめなのはどっち?
- 「ステータス」と「極上の肌触り」にお金を払いたい人
→ カシミヤを選びましょう。
そのとろけるような柔らかさと、誰もが知る高級感は、やはり唯一無二の贅沢です。ただし、繊細な素材なので丁寧なケアができる人向けです。 - 「暖かさ」と「長く使えるコスパ」を重視する人
→ アルパカが正解です。
カシミヤよりも希少で機能的でありながら、市場価格は割安なことが多いです。毛玉になりにくく、10年以上着続けられる耐久性は、「安物買いの銭失い」をしたくない人にとって最高のパートナーになります。
「高いから良い」と盲目的に選ぶのではなく、自分のライフスタイルや、「何を重視するか(肌触りか、丈夫さか)」で選んでみてください。
気兼ねなくガシガシ着られて驚くほど暖かい、高品質なアルパカニットが一枚あると、冬の幸福度がグッと上がるので、「アルパカ」をワードロープに加えることを、心からおすすめします!


